top of page

3. なぜ現代人は虫が嫌いなのか?

虫嫌いは世界中、特に先進国で広くみられますが、その原因は不明です。多くの虫に対する否定的な態度は嫌悪という感情として現れ、嫌悪は病原体回避行動を生み出すための心理的適応と考えられています。このような進化心理学の理論(嫌悪感の病原体回避理論とエラーマネジメント理論)に基づいて、「都市化」が虫嫌いを増やす経路が2つあると仮説を立てました。


 1)都市化によって室内で虫を見る機会が増え、室内で見られる虫の方が屋外で見られる昆虫よりも強い嫌悪感が誘発される
 2)都市化によって虫に関する知識が低下し、知識が低下することで嫌悪感を誘発する虫の種類が多くなる

 

 これらの仮説を検証するために、日本全国で大規模なオンライン実験と調査(n=13,000)を実施し、都市化度、昆虫の目撃場所(屋外・室内)、昆虫に関する知識、および回答者の嫌悪感との関連を定量化しました。結果は仮説を支持し、虫嫌いの背景には、病原体の感染を避けようとする過去の進化的圧力によって形成された心理的メカニズムがあり、それが都市化によって強化されていることが示唆されました。現在、世界中で昆虫の生物多様性の減少が深刻な問題になっており、虫嫌いの多さが、昆虫の保全が進まない要因の1つであると認識されています。そこで、結果に基づいて、虫嫌いを緩和するためのアイデア(①野外に近い条件で虫を見る機会を増やす、②虫の知識を増やして、種類を区別できるようにする)を提案しました。

Fukano, Y., & Soga, M. (2021). Why do so many modern people hate insects? The urbanization–disgust hypothesis. Science of The Total Environment, 777, 146229.

2. 動物園と動物アニメの役割

多くの市民にとって、動物園と動物アニメは絶滅危惧種のことを知る重要な手段です。実際に、動物園は世界中にあり、ライオン、ゾウ、カバなど飼育する動物の多くが絶滅危惧種です。また、ディズニー映画をはじめ世界中で楽しまれている動物アニメには、多くの絶滅危惧種が登場します。しかし、これら動物園や動物アニメが、市民の絶滅危惧種への関心や保全のための行動にどれほど貢献しているのかは全く分かっていませんでした。

​ そこで多摩動物公園の田中さん(私の九州大学時代の先輩にあたります)と、以前の研究でも共同研究した東京大学の曽我さんと、インタネットの検索データと動物園の寄付記録を解析することで、定量化しました。

kemono.jpg

解析の結果、動物園とアニメは、それぞれ独立して市民の絶滅危惧種への関心を高めることが分かりました。例えば、ある動物がある県の動物園で飼育されていると、その県での検索量が2倍に増加しました。また、けものフレンズの放映によって、アニメに登場する動物への検索数が600万回以上、Wikipediaでの閲覧数が100万回以上増加したと推定されました。さらに、動物園の寄付記録を解析すると、アニメ放映後、アニメに登場した動物はそうでない動物より多くの寄付を受けていました。つまり、アニメ放映が、動物園の絶滅危惧動物への寄付を増加させました。これらの結果は、動物園と動物アニメが絶滅危惧種への市民の関心を高め、保全のための行動を促すうえで重要な役割を果たしていることを示しています。

私自身、動物園は大好きでよく楽しませていただいています。また本研究は、各動物園が保管している寄付記録や、日本動物園水族館協会が公開しているデータベースによって成り立っています。恩返しではないですが、この研究が少しでも動物園の役に立てば幸いです。また、けものフレンズプロジェクトは、画像の使用を快く許可していただけました。ありがとうございました。今後も、動物園などの保全に係る期間とアニメなどのエンターテインメント産業が適切にかかわりあうことで、生物多様性の保全を強力に推進できるものと信じています。

もしこの手法や研究分野に興味がありましたら、お気軽にご連絡ください。

Fukano et al. (in press). Zoos and animated animals increase public interest in and support for threatened animals. Science of the Total Environment

1. 外来種への市民の関心をウェブデータで定量化

外来種の分布拡大を抑制し被害を低減するためには、専門家だけではなく、一般市民の外来種への関心を高める必要があります。しかしながら、これまで市民の関心を大規模に経時的に定量化する方法は限られていたため、市民の関心がどのように変化するのか、またその変化がどのような要因によって引き起こされているのかはほとんどわかっていませんでした。

 そこで、東京大学の曽我昌史さんと共同で、インターネットの検索データを解析することで、外来種に対する市民の関心の時間的・空間的な動態を定量化し、関心を引き起こす要因を明らかにしました。

図.jpg

本研究の成果は、外来種管理を考えるうえで、二つの重要な点を浮き彫りにしました。まず、市民への外来種に関する普及啓発を行う上で、メディアが重要な役割を持つという点です。外来種対策に関わる行政や研究機関は、メディアと密接にかかわりあい、正確な情報を適切に発信することで市民の関心を高めることができると示唆されます。次に、外来種が侵入した地域の近隣(近い将来、外来種の侵入が起こりうる地域)では、必ずしも外来種に対する市民の関心は高くないという点です。侵入とその後の分布拡大のリスクを考える場合には、発見県はもちろん近隣県の市民にも啓発できる方法を自治体やメディアと一緒に探る必要があります。

最後に、本研究で提案した分析手法は、どのような生物・地域にも適用可能な簡単な手法です。今後は、さまざまな外来種への普及啓発事業の効果測定や、絶滅危惧種やデング熱など局所的な感染症などを対象にした解析を行うことで、より効果的な外来種管理や生物多様性の保全、感染症の予防につながることが期待されます。現在、われわれも東京動物園協会や環境省などと協力して、よりより保全教育・保全マーケティングの手法を研究しています。もしこの手法や研究分野に興味がありましたら、お気軽にご連絡ください。

Fukano, Y., & Soga, M.(2019). Spatio-temporal dynamics and drivers of public interest in invasive alien species. Biological Invasions, 1-12.

bottom of page