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​人為環境での急速な進化

6. 植物は都市や農地でどのように進化しているのか?

都市と農地には、いわゆる雑草と呼ばれる同じような植物が生育していますが、その環境は大きく異なります。この環境の対比に注目することで、生物がどのように異なる環境で急速に適応しているのか、現在進行形の進化が観察できるはずです。

われわれは都市と農地における植物の密度(=競争者の多さ)の違いに注目しました。都市と農地のメヒシバ系統を作出、同一条件下で栽培し形質を比較することで、競争者に対する形質進化を検証しました。栽培実験の結果、都市と農地で草姿が遺伝的に分化しており、都市個体は匍匐型を農地個体は直立型の草姿を持つ傾向があることがわかりました。競争を模した栽培実験により、高い競争環境では直立型が有利に、低い競争環境では匍匐型が有利になることが示されました。

最後に、圃場実験とドローン空撮によって、農地に適応した直立型個体は、ロータリー耕による雑草防除に耐性があることがわかりました。直立型の個体は太い茎を持つため、ロータリーで切断されにくかったためだと考えられます。これらの結果は、メヒシバは農地と都市という異なる競争環境に草姿を変化させることで迅速に適応しており、農地で生じた進化が副次的に雑草防除効率に影響したことを示唆しています。また都市と農地の対比は、生物の急速な進化を研究するのに良いモデルとなることを示しました。

Fukano, Y., Guo, W., Uchida, K., & Tachiki, Y. (2020). Contemporary adaptive divergence of plant competitive traits in urban and rural populations and its implication for weed management. Journal of Ecology, 108(6), 2521-2530.

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ブタクサを食べる
ブタクサハムシ

5. 食草拡大の進化プロセス 

食草拡大(植食性昆虫が、今まで食べることができなかった新しい植物を食べはじめる現象)は、植食性昆虫の新種形成につながるため進化生物学的に重要なイベントだと考えられています。しかし、野外で食草拡大が起きている瞬間を観察するのは難しいため、その進化プロセスはよくわかっていませんでした。

 

ブタクサハムシは食草拡大の進化プロセスを検証するのにぴったりな材料です。というのも、これまでの研究によって、北 米のブタクサハムシはほぼブタクサのみを餌とし、同所的に生育しているオオブタクサを餌として利用しませんが、日本に侵入したブタクサハムシはブタクサと 共にオオブタクサを頻繁に餌として利用していることがわかっているからです(Fukano & Doi 2013)。これは、日本のハムシにおいて、餌植物のシフトが起こったことを示唆していま す。そこで、餌植物のシフトが起きていない北米のハムシとオオブタクサを、シフトが起きている日本のものと比較することで、食草拡大の過程を直接検証でき ると考えました。

実験の結果、北米のブタクサハムシは、北米のオオブタクサを餌植物として利用することは全くできませんでしたが、日本のオオブタクサは少し利用できることがわかりました。次に、侵入地である日本のブタクサハムシに対して同じ実験を行ったところ、北米・日本どちらのオオブタクサもほぼ完全に餌として利用できることがわかりました。

これらの結果から、ブタクサハムシに起こった餌植物のシフトについて以下のようなシナリオが考えられました。

(1)まずハムシの侵入に先立ち日本に定着していたオオブタクサでは、天敵昆虫がいないため、天敵に対する防御が低下していた。

(2)そのため後から侵入したブタクサハムシは、日本のオオブタクサを利用できた。

(3)その後、日本に定着したブタクサハムシが新しい餌植物であるオオブタクサをよりうまく利用できるよう素早く適応した。

つまり、植物側・昆虫側両方の進化的な変化が、餌植物のシフトに重要であったことを示唆しているのです。

Yuya Fukano, Hayato Doi, Cathleen E. Thoma, Mamoru Takata, Satoshi Koyama, Toshiyuki Satoh, (2016)  Contemporary evolution of host plant range expansion in an introduced herbivorous beetle Ophraella communa. Journal of Evolutionary Biology  

4. 侵入昆虫における食草拡大

 

ブタクサハムシは、侵入地の日本では、ブタクサとオオブタクサを激しく食害しています。一方原産地のハムシの記載では、ブタクサのみしか食草として記録されていません。もし日本でオオブタクサを食べ始めたとしたら、新しい食草獲得のプロセスをみていることになり、非常に興味深いです。

なので、以下の論文で本当にハムシは原産地ではオオブタクサを利用していないのか、その密度はどうなのかということを調べました。アメリカ東部で3000キロくらい、日本で1000キロくらいドライブしながら調査して得たデータです。

Yuya Fukano, Hayato Doi (2013) Population abundance and host use pattern of Ophraella communa (Coleoptera: Chrysomelidae) in its native and introduced range. Biocontrol Science and Technology, volume 23, pp. 595-601.

3. 侵入昆虫の食害が食草の種子分散に与える影響

悪い環境条件で育った母親が子供を遠くに分散させる可塑的な反応は、理論的に予測され、また動物ではいくつか検証例があります。以下の論文では、食害を受けたブタクサの母株は、種子を遠くに分散させる可塑的な反応をするのではないかと予測し、実験を行いました。ブタクサは浮く種子と沈む種子という種子多型がありますが、食害を受けた株は浮く種子の割合が多くなっていました。しかし、これは、食害に対する直接的な反 応ではなく、種子重量が低下することによる間接的な反応でした。どちらにせよ、食害は植物の分散を増加させうることを示しています。

 

Yuya Fukano, Koichi Tanaka, Hiroyuki Hirayama, (2014) A herbivory-induced increase in the proportion of floating seeds in an invasive plant. Acta Oecologia.

 

 

 

2. 侵入昆虫による開花フェノロジーに対する進化的影響

植食性昆虫の侵入はホストの防御形質に進化的な影響を与えるだけでなく、その開花フェノロジーにも影響を与えると予測されます。

以下の論文では、ブタクサハムシがブタクサの開花フェノロジーに与える進化的な影響を、野外実験による選択圧の定量化と、過去の種子を用いた小進化を検出する方法を用いて定量化しました。この研究は農業環境技術研究所で行いました。

 

Yuya Fukano, Koichi Tanaka, Tetsukazu Yahara, (2013) Directional selection for early flowering is imposed by a re-associated herbivore - but no evidence of directional evolution. Basic and Applied Ecology.14 (5), pp. 387-395.

 

 

 

1. 侵入植物の防御の進化

一般的に、侵入植物は原産地の天敵から解放されています。

そのような状況では、天敵の防御が必要でなくなるため、防御形質に費やす資源を低下させて、成長や繁殖に再配分するような進化が急速に生じるだろうと予測されています(EICA仮説)。以下の論文ではブタクサを用いてこの仮説を検証するとともに、原産地の天敵が再侵入した際には、回復するのではないかというアイデアを検証しました。

 

Yuya Fukano, Tetsukazu Yahara (2012) Changes in defense of an alien plant Ambrosia artemisiifolia before and after the invasion of a native specialist enemy Ophraella communa. PLoS ONE volume 7, 11, e49114

 

深野 祐也 (2012) 外来雑草の進化生態

学―天敵昆虫に対する防御の急速な進化―, 関東雑草研究会会報,23号, pp.34-42, 2012

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