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植物間相互作用と農業への応用

植物には、目も脳も神経系もありません。にもかかわらず、周りの植物や天敵昆虫の情報を手に入れて、適切に対応しています。しかし、植物がもっている認識能力はまだまだ未知の部分が多く、そのメカニズムに関してはほとんどわかっていません。

わたしたちは、このような植物間の相互作用を解明すると同時に、作物生産や雑草管理などの農業分野に応用する試みを行っています。

2. 植物の自他識別を応用した栽培法の検証

近年、さまざまな植物が自他識別能力を持っていることが実験室での栽培実験によって報告されています。われわれは、この反応に注目し、作物の苗の空間配置をうまくコントロールすることで個体間の競争が緩和できる可能性があると考え、キクイモを対象に実験を行いました(図1)。キクイモ(Helianthus tuberosus)は、北米原産のキク科ヒマワリ属の多年草です。草丈1.5〜3mと大きくなり、キクに似た黄色い花を9-10月につけ、10月末に地中に食用あるいは飼料用となる塊茎を作ります。キクイモは、親芋を分割することで複数の苗、すなわち遺伝的に同一な苗ができます。キクイモは、親芋を分割することで複数の苗ができます。もしキクイモに自他識別能力があるとすると、同じ親芋由来の苗(自株)が隣り合うように配置することで、無駄な競争が抑えられ、結果として収穫量が増加することを想定しました。

図1_Part1.png

温室での栽培実験と圃場試験の結果、予測の通り、自株同士のペアで栽培した場合には他株同士の時と比べて株間の競争が抑えられ、イモの生産が増加しました(下図、左)。また、より実際の農業に近い状況を想定し、6株を並べて栽培した実験も行いました。この実験では、隣株が自株になるような配置と隣株が他株になるような配置の2種類の植え方を比較しました。その結果、自株を密集して移植したほうが、根の割合が低く、塊茎の収量は高くなる傾向が得られました(下図、右)。この結果は、肥料や農地を増やすことなく、苗の由来を考慮して植え付けするだけで収量を増やすことが可能であることを示しており、農学的に重要な結果です。加えて、植物の自他識別が野外環境でも重要な役割を果たしていることを示した点で生態学的にも重要な結果とも言えます。

Fukano Y, Guo W, Noshita K, Hashida S, Kamikawa S (in press). Genotype-aggregated planting improves yield in Jerusalem artichoke (Helianthus tuberosus) due to self/non-self discrimination. Evolutionary Applications

1. 巻きひげにおける自他識別

自他識別、つまり自分と他人を見分ける能力は、生物にとって非常に重要な能力です。例えば、植物やホヤのの自家不和合性、多細胞生物の融合や脊椎動物の免疫機構など様々なところで自他識別が使われています。これまで植物では、根において自株(クローン・ラメット)との競争を避けるための自他識別が報告されていましたが、植物が地上部の器官でもこのような自他識別能力を持っていることは検証されていませんでした。つる植物の巻き付きはダーウィンの時代から研究されており、わずかな接触刺激に反応し、短時間で巻き付きを開始することが知られています。一方で、巻きつかれた植物は成長を抑制されます。またつる植物は、根と違い、反応をリアルタイムに生きたまま観察ことができます。そこでわれわれは、ブドウ科のつる植物であるヤブガラシに注目して、植物が地上部でも自他識別をしているかどうかを検証しました。

いくつかの実験の結果、つる植物は巻き付く相手として自株と他株を識別し、自株には巻き付きにくいことを発見しました。これは、植物における新しい自他識別システムの発見であり、つる植物が自株への巻き付きを避けるために自他識別を進化させたことを示唆しています。 また、この実験では、ヤブガラシは地下茎や茎で繋がった自株に対しては巻き付きにくいのですが、いったん切断し別の鉢で栽培した自株に対しては、他株と同じように巻き付くこともわかりました。つまり、株が連結して生理的に同調していることが自己と識別される条件であり、離れていても遺伝的に同一であれば自己と識別する免疫などの既知の自他識別とは根本的に違ったメカニズムを持っていることを示唆しています。が、その生理メカニズムは全くわかっていません。今後はこの現象の一般性と生理メカニズム、それから生態学的意義の解明が必要だと考えています。

誰にでも思いつきそうなシンプルな現象がこれまで見過ごされてきたことが驚きでした。また、こんなに身近に生えているヤブガラシのような”雑草”でも、面白い研究ができるのですね。九大と農工大で行った実験で、九大にいたときに一緒だった山尾僚さん(現弘前大)との共同研究です。

 Yuya Fukano, Akira Yamawo, (2015) Self-discrimination in the tendrils of the vine Cayratia japonica is mediated by physiological connection. Proceedings of the Royal Society B. Volume 282, No. 1814, pp. 20151379

巻きひげの識別研究は、2015年、当時九州大学でポスドクをされていた山尾僚さん(現弘前大学農学生命科学部所属)のアイデアによるもので、共同研究として進めています。

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